claviarea 2 コンテンポラリー・ピアニズム/中村和枝のピアノ接近物語

claviarea 2 コンテンポラリー・ピアニズム/中村和枝のピアノ接近物語

本公演では、「演奏者←→観客」という従来の2項対立的なコンサート様式からの脱却を考え、定員制限された観客がピアノに極力近接して取り囲むという客席配置をし、物理的に演奏者と聴き手の間の溝を取り除きます。聴き手は演奏者の呼吸さえ聞こえる位置にいることによって、演奏者が楽器に関わるその瞬間瞬間を生身に感じ取ることになります。また演奏者は自分自身が起こすありとあらゆる音や空気を、聴き手が会場の天井や壁などのクッションを通すことなく直接聴き取ることを知り、聴き手の体験を自らに引き寄せて疑似同化するでしょう。これは従来のコンサートに含まれる「甘い関係」を捨て去った実験です。なぜならば、聴き手は常に聞き耳を立てる緊張を要求され、演奏者はどのような音(例えば呼吸や椅子がきしむ音など、普段なら非楽音として奏者の耳からは取捨選択されるような音)も聴き手に聞かれ、すべての所作が奏でる音楽として対象化されるからです。
「ピアノ接近」はまた、従来楽音とされない、山本裕之の提唱する「裏の音」を積極的に音楽として聞く、という性格も併せ持ちます。ピアノは産業革命の産物として、複雑で高度な機械構造を持ち、その特殊な仕組みが発生するあらゆる音を敢えて聞き取ろうとすれば、耳を音源に接近させるという原始的な方法がきわめて有効です。「ピアノ接近」はこれまで隠匿され続けてきた「裏の音」を表に導き出すための、一つの聴取システムでもあるのです。
プログラムは通常のリサイタルとは異なる組み方がされます。まず通常以上の緊張に耐えるため、演奏時間は短めに抑えられます。また選曲は、特殊奏法を用いて通常にはない音を多く用いる作品と、オーソドックスな奏法によるものの二通りを中心になされました。これらを並列し、ともに「ピアノ接近」して聴取することによって、ピアノ音楽のこれまでになされなかった聴かれ方の多様性を期待します。

●インフォメーション

■演奏:中村和枝(ピアノ)
■企画:山本裕之(作曲家)

■場所:門仲天井ホール/東京都江東区門前仲町1-20-3-8F
■日時:2002年7月20日(土・祝) 開演18:00(開場17:30)
■入場料:2000円(予約制)

■プログラム:
ジェラール・ペソン/光は我らを支える力を持たない*
山本裕之/足の起源 I**
神長貞行/-無限小律揺“モアレ”-ソロピアノのために
ゲルハルト・シュテープラー/ダリ*
近藤讓/ピアノのための舞曲“ヨーロッパ人”

*)日本初演 **)世界初演